KUON Flagship Store by Kanome
Fashion store | Tokyo, Japan
DESIGN NOTE
手仕事の集積でブランドアイデンティティーを表現
木造長屋の既存部を生かすデザイン
重厚なアンティークの蔵戸
photography : Daisuke Shima
words : Reiji Yamakura/IDREIT
Kanomeがインテリアデザインを手掛けた、ファションブランドKUONの初の直営店。木造長屋の1階を全面改装し、ショップの奥にはオーダーメイドやリペアの注文に対応するスペースが設けられた。依頼時の要望は、海外から訪れるお客さんが喜んでくれる空間にしたいこと、モダンな和の表現をしてほしい、という2点だったという。
Kanomeを率いる近藤卓生は、「“新しいものは古くなるけれど、美しいものはいつまでも美しい”というKUONのブランドコンセプトに大きく共感し、この古い建物の中で生かせる部分を探りながら、彼らに相応しい空間をつくりたいと考えました」と計画当初を振り返る。
エントランスに重厚な蔵戸を用いた理由を尋ねると、「長いアプローチや店舗形状から、細長い通路のような印象を受けたので、店内の一番奥に宝物がある『宝の蔵』をキーワードにデザインを進め、エントランスにはアンティークの蔵戸を使いました。戸の下に見える黒い金具は、もとから付いていた錠前です。また、日本の職人の手で丁寧に再生された襤褸(ぼろ)や東北地方の伝統技術である裂織など、彼らの扱う生地はまさに宝物であり、その生地を壁一面にディスプレイしたオーダー用のスペースが“宝の山”のように一番奥にあるという配置計画としています」と語る。
ショップ部分では、既存のフローリングやカウンターを残し、柱はガラスのディスプレイテーブルの支持材にするなど、回遊性に配慮しながら、もとからあったものを生かしたデザインがなされている。柱の上下や床の入り隅は、かつてここにあった真っ白い空間の名残を残し、かつ、空間を和らげる効果を意図してグラデーションで仕上げられた。
店内奥のオーダースペースは「KUONの格子状の織物とリンクするように、20mm角のヒノキ材を現場組みした格子を設け、そこに彼らの生地をディスプレイしました。床には畳、上部には梅と竹が彫られた欄間を用いることで、海外からの来た方にもわかりやすい和室の設えとしています」と言う。
この空間では、KUONの服づくりのように、気の利いたディテールが随所にあることも大きなポイントだ。店内ハンガーに見られる日本刀のような仕上げの意図を尋ねると「この店舗の2階はアトリエになっているのですが、そこで作業するKUONのスタッフの方たちが現代の侍のように思えたので、そのイメージを空間に表現したいと考えていました。また、ハンガーを掛けるバーは、初期から黒皮の鉄を使うデザインを想定していたのですが、使用しているうちにハンガーが接する上端が削れたり傷がつくので、その対策を検討していた時に、日本刀の刃紋のように見えるのでは、というアイデアから黒皮鉄の上部を手作業で磨いてみました。すると、生の鉄らしい表情が現れ、想像以上のよい仕上がりとなったのですべてのハンガーバーに採用したものです」。
他にも、蔵戸の室内側に後付けしたハンドルのビスにはKUONのロゴを刻印し、商品棚の引き戸の手掛けの穴はブランドロゴと同じ六角形にするなど、気づく人だけに伝わるようなディテールが加えられている。
計画全体を振り返り、「施工中には、解体してから判明した損傷により、エントランスの基礎を打ち直すなどの苦労もありましたが、この空間では、一つひとつのパーツを丁寧につくるデザインを徹底することができました。ブランドの服づくりと同じ方向を目指し、古いものを蘇らせ、手仕事で違いを生み出そうと施工チームと意識を共有できたことが良い結果につながったと思います」と近藤は語ってくれた。
(文中敬称略)
DETAIL
所在地:東京都渋谷区神宮前2-15-10
経営: 株式会社MOONSHOT
用途:物販店
開業:2020年9月
面積:39 m2
仕上げ材料
床:既存コンクリート塗装面研磨の上あらわし + 既存フローリング 一部白グラデーション仕上げ
壁:既存モルタル下地 + AEP塗装(一部、エイジング既存合わせ)
什器:ハンガーバー・黒皮鉄4.5x38 一部磨き仕上げ
商品棚・ラワン合板オイル仕上げ
建具:アンティーク蔵戸 蔵戸のロゴ入りビス(鉄 削り出し)
照明器具:ペンダント照明(GLOBO CESTITA / SANTA&COLE /)、ロゴ入り提灯
〈オーダースペース〉
床:琉球薄畳敷き
壁・天井:聚楽仕上げ
柱・框:ヒノキ
ディスプレイ棚:ヒノキ(20mm角)クリアラッカー仕上げ