MOCHISHO SHIZUKU Kishiwada by TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO
Confectionery Shop | Osaka, Japan
DESIGN NOTE
ミニマムに構成された和菓子店
ガラス越しに落ちる影を見せる餅のディスプレイ
“インスタレーションの場”としてのデザイン
photography : Takumi Ota
words : Reiji Yamakura/IDREIT
TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO が、新町店(2008年開業。旧店名:日月餅)に続き、インテリアデザインを手掛けた「餅匠しづく」の岸和田本店。 「お菓子で百薬の長を目指す」をテーマに、素材にこだわり、旧式の機械で餅をついてつくる「餅匠しづく」は、岸和田発祥の和菓子店で、新町店のオープン後は岸和田店を閉め、その奥にある工場部分のみを稼働させていたという。
本店の改装依頼を受けて、デザイナーの柳原照弘は「新町店の開業時には、あのような装飾を抑えたスタイルの店がなかったので、広く受け入れられ、売り上げにも結びつけることができました。しかし、新町には茶寮のスペースなどもあり、そこまでストイックにはできなかった。そこで、オーナーの思い描くコンセプトをより強く感じられる、インスタレーションの場としてデザインしたのがこの岸和田店です」と語る。2008年当時、打ち放しコンクリートを基調に鏡面仕上げのステンレス製スツールを組み合わせた新町店のデザインは、相当にハイブローな印象を受けたが、ストイックではないと自己評価している点は、彼らの基準をうかがい知る意味で興味深い。
店舗は、かつての入り口のあった正面のガラス壁をコンクリートで閉ざし、側面から回り込むアプローチを採用。「看板を設けず、お餅の店なのかどうかさえわからないようにしています。菓子店ではありますが、高い美意識を持ち、アートに造詣の深いオーナーのコレクションを飾る場所をつくる、という感覚でデザインを進めました。お餅へのこだわりを聞く場であり、店主と話をするために訪れるスペースにしたいと考えたのです」。エントランス正面のコンクリートの壁には、オーナーがアーティストの河口龍夫に依頼したという、小豆を鉛で覆った作品が飾られている。
店内の和菓子を置くディスプレイは、高さ1100mmに設えた腰高の壁の上に、ガラスの専用什器を置き、その上に季節の餅などが並ぶ。「お餅を中心に、それを見ながらお客さんと店主が話ができるようにしたくて。ガラスの上にお菓子を載せたのは、衛生面からというより、透明のガラス越しに、コンクリートの天端に影を落とすことで、時間の流れを3次元的に見せようという意図で考えたもので、2015年に有田焼のプロジェクトをミラノで展示した時のアイデアを発展させたものです」
実際に店舗を訪れるお客さんは、自然農法の素材や使用する水へのこだわり、アートの話題などオーナーとの会話を楽しみ、1、2時間を店内で過ごす人も少なくない。「店内で長時間を過ごすお客さんのためにベンチが求められましたが、機能的なベンチを置くと、そこに目が行き過ぎてしまうので、あくまで、お餅がメインの空間とするために、座るために必要な高さのある屋久杉の無垢材を置くことにしました」と振り返る。ベンチではなく、座るための“高さ”だけが必要だったという説明には、彼らのデザイン意図がよく表れている。
つきたての餅菓子を、オーナーの美意識をあますことなく伝える空間で、つくり手と対話しながら味わうことができる、この岸和田本店。ブランドの中核となる本店の存在意義をあらためて認識させてくれる、極めて贅沢な店舗だ。オーナーは、ガラス越しに映る影や丁寧に揃えられた開口部高さのラインからインスピレーションを得て、建築用の墨出しレーザーで水平線を表示し、そこに合わせてアートを展示するなど、設計者が思い描いた以上に、この空間を楽しんで活用しているという。
(文中敬称略)
DETAIL
CREDIT
名称:餅匠しづく 岸和田店
設計:TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO 柳原照弘
施工:キクスイ
・
所在地:大阪府岸和田市上野町西 21-11
経営:石田嘉宏
開業:2018年2月
面積:29m2
用途:菓子店
・
仕上げ材料
床:墨入りモルタル
壁:墨入りモルタル
天井:AEP
カウンター:コンクリート打ち放し
壁面棚:スチール曲げ加工焼き付け塗装
天井照明ボックス:黒皮スチール