Interview with KEISUKE NAKAMURA/DAIKEI MILLS —part 2
この記事はインタビュー後半です。前半はこちら「Interview with KEISUKE NAKAMURA / DAIKEI MILLS —part1」
— 声が掛かったとはいえ、この場所を見た時は驚いたのではないですか?
はい、こんなチャンスは人生でそうあるものではない、と(笑)。
SKWATは、ゲリラ的に行っていく活動なので瞬間風速を上げる面白さがあり、一時的なインパクトを残すことはできますが、“場の本質”を考えると、そこに行けば誰と会えるのか、もう一度行きたいと思えるのか、というソフト面での魅力が欠かせません。一時的に話題になるだけではSKWATとしての強度が上がっていかないので、当時、僕たちはヘッドクオーターの必要性を感じていました。そんなタイミングで出合ったこの場所は、本拠地としては最高のロケーションだと思いました。
昨年、原宿の一軒家でSKWATを始めた時に、オリンピックのメインエリア周辺では、将来空きテナントの問題が浮上し、街が空白化していくと予想していたので、この遊休施設を利用する活動は時代にフィットするはずだと踏んではいたものの、まさか活動を始めて数ヶ月で、青山の中心部でこれほどの規模の展開ができるとは思ってもいませんでした。
— インテリアはどのように考えたのでしょうか。
内装は、昨今よく見られるスケルトン風のデザインとは異なる、テナントが出た後の素のスケルトンに対して、必要最小限の行為で最大の強度を持たせるパフォーマンスを考えました。壁周りと天井には一切手を加えず、床で何かを表現していくのは、これまでのSKWATと同じ考え方です。この場所では、躯体にPC線を保護するための赤いラインがもともとあったので、それと呼応する赤をテーマカラーとして、床に領域をつくるようにパンチカーペットを敷きました。また、シボネ青山の解体時に廃棄予定となった書棚と照明器具を譲り受け、SKWAT用に少し変容させて再利用しています。
— この広いスペースは、実際にはどんな使われ方をしているのですか?
内部には、twelvebooksによるアートブックストアと彼らのワークスペースがありますが、ここでは本を売ることよりも、アートから刺激を受けたり、訪れた人の心によい風が吹くような心地よい場所をつくりたいと思っていたので、書店ではなく、街に開かれたライブラリーという打ち出しをしています。今のところ、毎日多くの方が訪れてくれていて、本を眺めたりソファで寛いだりと僕たちが望んでいた形の空間ができています。
— 青山の真ん中にそんな環境があるというのは、なんだか羨ましいですね。今後の展開について、具体的なイメージはあるのでしょうか。
この建物内でさらに区画を拡張しながら、そこに異なるコンテンツを入れ、複合的な文化施設へと展開していく予定です。また、全く異なる場所でのプロジェクトも既に動いており、そこではSKWATとしての宿泊施設の計画や、はたまたweb上での新たな取り組みが近日お披露目の予定で進行中です。
リアルな場だけではなく、バーチャル上のSKWATならではの場づくりも重要で、その両軸がしっかりと連動することで、それぞれの良さが際立つ“場”になると考えています。他にも、この活動や思想に強く賛同し、ともにSKWATを盛り上げてくれる強力な仲間が増えています。それは本当に喜ばしいことですし、僕が想像し得ない世界が待っているのでは、と思っています。
— それは楽しみですね! 最後に、これまでの苦労や手応えを教えてください。
すべてのことが想像以上のスピードで進んでいる最中で、まだ冷静に振り返る余裕がないのですが、SKWATが街の面白さや、場所の価値を引き上げることに貢献できるのではないか、という実感があります。また、今後、“ラグジュアリー”という定義が大きく変化していくと感じており、そこに対する大きな一手として、SKWATが空間デザインの新たな“ラグジュアリー”を提示できるのではないかと思っています。
— ファッションやデザイン関係者に、SKWATを面白がる人が多いというのも、“予定調和感”が蔓延した今の東京では、個人の意思が見える中村さんたちの活動が際立って見えたのでしょうね。
今の時代の移り変わりの早さや、デジタル化の動きはとどまる気配がありませんが、これほど共感を得られたのは、タイミングと場所の持つ力が大きかったのだと思います。
SKWATは、僕たちが興味のあることしか絶対にやらない、というスタンスで始めたものですが、インティペンデントな活動であっても、強さのある情報であれば発信すればするほど共感の輪が広がっていく。また、こんな時代だからこそ、リアルで生々しい場があることで人が集まり、周辺の活性化や新しい価値の創造へと向かっていけるように感じています。
青い一軒家でSKWATが始動した時には、いったい何が始まるのだろうという期待と疑問が浮かんだが、わずか半年の間に、中村本人が「ここまでのスピードで拡張するとは想定外」と振り返る通り、強いコンセプトとユニークな空間が両輪となって、共感する企業やブランドを巻き込む動きが加速している。マーケティングから導かれた解法とはまったく別のアプローチによる、強い意思を持った表現者がコントロールするSKWAT。“Squatting” を現代の東京に最適化した彼らの活動が、国内外の感度の高い層から熱狂的な支持を得る、という逆転現象が痛快に思える。