Interview with JO NAGASAKA/ Schemata Architects —part 1
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photography : Kenta Hasegawa
words : Reiji Yamakura/IDREIT
長坂常が率いるスキーマ建築計画は、2020年に、テナントとして入っていた青山のビルの3階から、北参道の鉄骨造建築に事務所を移転した。移転直後は解体を含め、内装工事を一部プロの手を借りつつ、若手スタッフを中心にセルフビルドしながら設計業務を行っていたという。その後、飲食営業の許可を取得して事務所の一角で「スナック」を営業したり、現場にあるありあわせの材料でつくられた家具のスタディをテーマに「まかない家具展」を自主開催したりと、ユニークな活動をさらに加速させている。
このインタビューでは、2020年竣工の「T-HOUSE New Balance」の開発プロセスと共に、「Sayama Flat」(2008年)と並びスキーマ建築計画の考え方の一つの起点となった新築のプロジェクト「HANARE」(2011年)について、デザインの根本にある考え方を聞いた。
まずは、埼玉県・川越に建っていた築122年の蔵を使ったニューバランスのコンセプトストア「T-HOUSE New Balance」について、デザインの過程を教えてください。
「解体撤去される予定だった蔵を引き取り、40kmほど離れた日本橋浜町に再建するという計画でした。敷地は防火地域だったこともあり、木造の蔵をそのまま移築して店舗として使うことはできなかったので、新たに鉄骨造の建屋を新築し、その中に古い軸組みがある状態になっています。設計については、オンデザインパートナーズと連携し、建築の意匠監修とインテリアはスキーマ建築計画が担当しました。
依頼を受けた当初は、歴史ある蔵の生かし方について懸念があったそうですね。
あの蔵を使うことは僕たちが設計依頼を受ける前から決まっていました。しかし、移築してそのまま使うのではなく、新築する建物の中に、古いものを“化粧”として持ってくれることに、なにか偽物のような気がして違和感がありました。もちろん、あの蔵の構造が絵になることはわかっていましたが、博物館の展示物のような見せ方ではなく、なんとか“生きたもの”にしたいと考えていたのです。そんな時、現場の職人さんが、柱と柱の間に、貫(ぬき)のように現場にある端材を差し込んでホウキ掛けとして使っていた様子を目にして、『あ、これだっ!』と思いました。
このホウキ掛けのように、蔵の軸組みを什器として使うことができるんじゃないかって。すでに実施設計は一通り終わった段階だったのですが、この構造にからめた機能を与えることで、古材がハリボテではなく、機能を始めると考えたのです。この現場でのひらめきから、新築部分を第一のレイヤー、古材に軸組が第二のレイヤー、ショップ機能を担う部分が第三のレイヤーという3層の構成がより明確に定まり、一気に全体の見通しが立ちました。
素材はどのように考えたのでしょうか。
第一レイヤーとなる新築部分の室内は、鉄骨を白い耐火被覆で覆い、それ以外の部分も同じ質感の白い断熱材を吹き付け、白い“カタマリ”のようにしています。第二レイヤーは、この空間のサイズに合わせて微調整した古材です。機能を与えることを決めた後に、無駄な材をさらに整理して今の形になりました。そして、第三レイヤーとして、ハンガーラックや棚板、ミラーや照明の取り付け部分など、ショップとしての機能を支える部材をデザインしました。この第三レイヤーについては、亜鉛メッキの金属パーツだけで構成して、二つのレイヤーとの違いをより明快に見せるアイデアもあったのですが、 “ホウキ掛け”を現場で目にしてからの急な設計変更だったので、現実的なスケジュールを考慮してMDFと亜鉛メッキの部材を組み合わせて製作しています。また、外観は、もとの蔵をなぞるように白くミニマムなデザインとし、蔵戸をそのまま利用して、かつての姿との接点をつくることに注力しました。
古い材料を使うという点では、門脇耕三さんがキュレーターを務める「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館」のプロジェクトでも、長坂さんはチームの一員として新しい取り組みをしているそうですね。
ヴェネチアのプロジェクトでは、日本に建っていた木造住宅を解体した資材を会場に運んで再構築する計画が進行中で、一つひとつ形が異なる部材をスキャニングし、設計に取り込むという方法をとっています。「T-HOUSE」では、蔵の魅力があったからこそ海外メディアなどからも関心を持ってもらうことができ、古材を活用する意味があったと思いますし、蔵のような歴史的建築には専門業者がいて、移築などの技術が確立されています。しかし、今はありふれた民家の古材であっても、個別に対応することができる時代になってきていて、そこには新しい可能性があると考えています。
建築資材のアップサイクルですね。
世界で言われるアップサイクルや、同じ場所で長く使うヨーロッパなどの感覚とは違う部分もありますが、地震があり、法規が異なる日本では同じようにはできません。特に都市部では地価に見合う容積が求められることや、既存不適格となるから新築せざるを得ないといった事情がありますが、廃棄せず、使えるものは使いたいというのが本音です。今は大量生産すら悪になる時代ですが、規格材ではなく、いろいろな背景の材料を個別に扱ってデザインするということにはとても興味があります。
(後半に続く)
Schemata Architectsの長坂常さんへのインタビュー後半はこちら