Interview with SEIJI KUMAMOTO / design ground 55—part 2
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photography : Daisuke Shima
words : Reiji Yamakura/IDREIT
この記事はインタビュー後半です。前半の記事はこちら「Interview with SEIJI KUMAMOTO / design ground 55 —part1」
— 「手打蕎麦 守破離 黒門店」では、わざわざ古材を探したのですね。店内の間仕切り壁の腰の色鮮やかな素材は何ですか。
経年変化した銅板で、実は100年以上前の樋を切り開いた内側を表に見せているものです。奈良に、社寺などの廃材を収集している方がいて、そこで始めて目にした素材を使いました。様々な色がありますが、これらは全て自然に発色したものなんです。
また、店内中央のロングテーブルには、木目が浮き出た古材を使いました。テーブルの天板に使う場合は、プレーナーで表面を削るのが一般的と思いますが、ここでは凹凸を残したかったので、表面はそのまま木目の溝を残し、クリアウレタンのみで仕上げました。アンティーク建材や陶器など、オーナーと遠方まで足を運んで選んでいったものばかりなのですが、この店舗は堂島店に次ぐ2店目でしたので、オーナーも僕も、もっとやろうとエスカレートしたところはあったかもしれません(笑)。
— なるほど。そして、この店舗にも「手打蕎麦 守破離 堂島店」同様に苔庭があるのですね。
はい。苔は直射日光に弱いので、まず日中に陽の当たらない場所を最初に選びました。とても気を使ったのが、苔庭を望む窓の配置です。客席の開口部と、トイレの双方から苔庭が見えるように計画していますが、当然客席からトイレが見えてはいけませんし、さらに隣接するマンションを見せないように、この高さでここしかないという位置を現地で検証して設計しました。
— そうやって、奥行きのある開口部と、トイレからの開放的な眺めが実現したのですね。二つの店舗で共通して配慮したことがあれば教えてください。
「守破離」という店名に習い、和の伝統を守りつつも打ち破って、新たなものをつくることを意識しました。また、和のデザインを進める中で、特に“静”の雰囲気を保ちながら、独自性を持たせる必要があると考え、素材と照明にはこだわったつもりです。両店ともに、客席に吊った照明はモダンな印象となるように丁寧にデザインしました。
— 隈元さんは、全くテイストの異なるホテルやバーを手掛けることも多いと思うのですが、守破離のような日本らしい空間をデザインする時に気を付けるポイントはあるのでしょうか。
基本的な考え方としては、日本独特の「侘び寂び」を意識し、装飾を抑えて設計をしますが、迷った時はいつも京都に行って本物を見るようにしています。
正統な和の意匠を店舗に再現するのは、様式や決まりごとが多いのでなかなか難しいのですが、そんな場合でも和のデザイン要素を分解して、どの部分に“らしさ”があるのかを考えます。また、樹種の選び方や間の取り方、床に照明器具を置くなど灯りの使い方を意識していけば、和格子や和紙などを使わなくても、日本らしさが表現できるように思っています。
— 最後に、普段のデザインで心掛けていることを教えてください。
一番大切なのは、利用する方にとっての居心地です。僕はデザイナーなので、それぞれの空間にふさわしい色彩、素材のトータルバランスとボリュームを考慮して美しいものを生み出すことが大切だと思っていますし、そこを徹底的に考えてデザインをします。
しかし、一方で、見た目の良さやディテールには、設計者本人だけが満足するエゴがどうしても入ってしまう。自分で行って良かったと感じたものは、やはり心地が良い場所ですし、特に飲食店は格好が良いだけでは飽きられてしまうんです。ですから、居心地を重視したデザインを常に心掛けています。
隈元によるデザインは、現代的な空間にアンティークを取り入れることもあれば、その反対に「手打蕎麦 守破離 黒門店」で数十年を経た建物の時代感をベースとしながら、そこに暖炉やモダンな意匠照明を加えて現代的な印象をつくったように、素材や形のデザインに加え、時間という軸をうまく取り入れているように思える。
また、庭や土壁など、自然素材の使い方については自然豊かな環境で育ったという生い立ちが影響しているのか、次の機会に聞いてみたい。