Y-HOUSE by TONERICO: INC.
Tokyo, Japan
DESIGN NOTE
要素を削ぎ落としたミニマルなデザイン
ディテールに配慮した壁面収納
設計者の覚悟を示す自邸デザイン
photography : Satoshi Asakawa
words : Reiji Yamakura/IDREIT
TONERICO: INC.の米谷ひろし、増子由美が暮らす自邸のインテリアデザイン。いわゆる玄関のようなスペースは無く、床はすべてグレーのセラミックタイル貼りで統一し、全体をワンルームに近いかたちで使えるように設計された。リビングルームの中央には、友人らと8人くらいで囲めるサイズ感のオリジナルのローテーブルが置かれた。同室の壁際に備え付けられたソファは、大人2、3人でもゆったりと過ごせるものだ。
米谷は「自分たちが暮らす家ではあるけれど、実験のための空間という意味合いもあり、素材もさることながら、収納や目地の扱いをあらためて自身に問うデザインとなった」と振り返る。
ベッドルームにはいっさいクローゼットを設けず、リビングルームの壁一面が大きな収納棚として活用されている。そこで驚かされるのがミリ単位で検討された目地寸法である。
「僕がかつていたスタジオ80では、内田繁さんにとっては、扉の目地幅は15mmでなければいけないものでした。三橋いく代さんは、一歩間違えると使いにくくなる寸法ですが、さらに狭めて13mmまではできる、という考え方でした。今、僕らトネリコ では、余裕を持たせて20mmを標準としていますが、この家の設計では、そうした寸法についてあらためて考え、収納扉と床の間は13mm、縦方向の目地は4mm、横方向では12mmと13mmというように、突き詰めた設計を行い、信頼の置ける施工者に依頼しました」(米谷)。
ベッドルーム一角の窓際でデッドスペースとなる場所には、桐材でオリジナル制作した前面扉を省いた仏壇とタッチラッチ式の引き出し収納が設けられている。
取材の終わりに、この住宅デザインに限らず、トネリコのデザインから感じる整然とした印象とあたたかみのバランスについて尋ねると、米谷は、「自身の生い立ちを振り返ると、決して整理整頓ができるタイプではありませんでした。ただ、大人になる過程で憧れたものが、シンプルで無駄の無いデザインであり、スタジオ80のスタッフになった時に、クライアントが見ない引き出しの中にまでこだわれ、という教えに影響を受け、また、デザイナーとしてはそこまでやらないといけない、と過剰に思い込んだ部分はあったかもしれませんね。現在、デザインする上では、むやみに整然とさせるのではなく、機能的に整理をすることで、見る人がハッとするような何かを伝えるデザインをしたい」と。
共にトネリコ を牽引する君塚はそれに付け加えて、「最近手掛けた、アーティゾン美術館の設計はまさにその極みですが、普段のつくり方、デザイン、クオリティーコントロールをきちんと行い、全体として成立させること常に力を注いでいます。違和感があるとそこに気がいってしまうので、違和感をいかに消せるか、という作業とも言えます」とトネリコのデザインプロセスを語る。
常にミニマルなデザインをクライアントから要望されるわけではないと言うが、米谷は「自分たちの意識としては、もっとシンプルに無駄を削ぎ落とすことができる、と思っています。ただ、店舗によってはシンプルにし過ぎては成立しないことがあるでしょうし、どんな空間も最終的に居心地が良いデザインにしなければいけない。ですから、この自邸を訪ねた人が言ってくれた『写真では冷たく見えたけれど、実際に行くと思ったより心地よくて』というのが僕らにとって最高の褒め言葉なんです」と笑う。
(文中敬称略)
DETAIL
CREDIT
名称: Y-HOUSE
設計:TONERICO: INC. 米谷ひろし 増子由美
施工: 綜合デザイン
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所在地:東京都
竣工:2012年
仕上げ材料:
床/セラミックタイル(298 x 598 t10)
ローテーブル/人工大理石貼りシームレス処理 (1500 x 1500 H360)
つくり付け仏壇/桐材オリジナル製作