MYOUKEI-AN by kvalito

Osaka, Japan

MYOUKEI-AN | kvalito | photography : Tatsuya Tabii

 

DESIGN NOTE

  • 寺院の背景にふさわしい静かな外観

  • 内部空間に変化と豊かさを与える家型の架構

  • 造作家具に表れた繊細な素材使い

 

photography : Tatsuya Tabii
words : Reiji Yamakura/IDREIT

EN

 
 

大阪府茨木市の崇徳寺の境内で、kvalito(クヴァリト)の水上和哉さんが設計した、引退する女性住職のために計画された木造平家の住宅。敷地は、かつては倉庫とガレージがあったという参道沿いの一角にあり、目の前には本堂が位置している。建物前を参拝者が行き来する立地のため、「まずは、境内の景観を整えることが重要」と考えたという。

崇徳寺の本堂(左)への参道に面した外観。“境内の背景となる壁”として、グレーに仕上げた焼杉を用いた、静かな外観がデザインされた

当初は、参拝者が住み手である元住職とちょっとしたコミュニケーションをとれるように“開かれた”建築のあり方も検討したというが、プライバシーの確保を優先したいという要望から、外観は参道の背景となる静かなたたずまいのデザインに至る。内部については、南東の角に三角形の庭が設けられること、東側の隣地の植栽が借景となることを手掛かりにメインとなる住空間の配置が定められ、引き戸によって居間と来客を迎える和室、寝室が分節できるように配慮されている。 

インテリアを特徴づける居間の家型のフレームについて尋ねると、「トップライトかハイサイドライトが欲しいという要望を受け、多角形屋根の頂部にトップライトを設けるなど様々な案を検討した上で、東側にハイサイドライトを配置しました。そして、生活の中心となるスペースにハイサイドライトから光が落ちてくる状況を考える中で、この家型の架構が思い浮かびました。パーゴラのように木架構の上からの光を感じる経験は、室内ではあまりないと思うのですが、ここでは、片側だけに天井を張ることで、室内と屋外のように異なる質を持った空間を、一つの家型の中に同居させようと試みています」と意図を語る。引き戸によるフレキシブルな平面計画や、自然光によって変化を生み出そうとするデザインは、すべて引退される住職が1日の長い時間を家の中で過ごすことへの配慮だという。 

この家型の架構を実現するにあたっては、構造設計を手掛けたIN-STRUCTの東郷拓真さんの協力のもと、表からは見えない構造上の工夫が多く施されている。天井を張った側の屋根面に斜材を設けることで離れた位置の壁に力を伝え、山形垂木の頂部を露出しないホームコネクター工法で固定することで、タイバーの無い軽やかな架構を実現しているのだ。また、垂木が連続する家形の頂部が際立って美しく見えるのは、上部にある壁の仕上げ面が、垂木の頂点とぴったり同面になるよう、上部の柱位置を天井のある側に65mmずらすなど細やかな調整を行っているからだという。 

東側に開口のある居間。家型のフレームの右側半分には天井を張り、左側は垂木越しにハイサイドライトからの光が落ちる

断面図

また、素材にこだわり、ストイックにつくりたいタイプと自らを語る水上さんは、予算上の制約がある中でも、外壁、造作家具などでこの家にふさわしい仕上げを採用している。例えば、玄関の靴箱では、手頃なラワン合板を面材としながらも、手掛けや木口には同じく南洋材で、適度な木目のあるニヤトー無垢材を合わせることで繊細な仕上がりとしている。積層合板の木口を見せず、かつ、南洋材でもモアビでは表情がおとなし過ぎるのでニヤトーを採用したというこだわりや、軒下の柱が露出する部分では、まったく異なる建築物ではあるものの本堂の納まりを参照して礎石を使うことで相互のつながりを表現するなど、一つひとつの選択の理由が興味深い。外壁では、本堂の瓦屋根と呼応する色みと質感から、耐久性の高い焼杉を採用。しかし、黒い焼杉をそのまま使うと境内の環境で目立ちすぎるため、表面の炭を落とした上にグレーの含浸塗料を塗ることで落ち着いたシルバーグレー調の表面として、手が触れた際に炭が付かないように配慮するとともに、経年変化がプラスとなるような素材選びがなされている。 

このプロジェクトを通じて、外部は境内の背景として閉じること、内部では狭い空間をいかに伸びやかに見せ、また入ってくる光によって変化する空間をつくるという、それぞれ異なる達成すべき目標を、壁・屋根・架構など、表裏一体の構造として実現できたことが大きなポイントだったと振り返る。「建築というのは、構造、光、空間の三つを同時に扱える分野であり、それが醍醐味だとあらためて認識しました。これからも、表層だけを扱うのではなく(表層の重要性も十分に意識しながら)、構造を伴った形に対して、光を与えていくことで空間をつくってきたい」と語ってくれた。

 

DETAIL

垂木越しに落ちる光が、インテリアに変化を与える。米松材を用いた垂木の断面寸法は60×105mm。耐力上の要件を満たしながら、構造材としての印象が強くなり過ぎず、かつ、内装材としての印象にも寄り過ぎない寸法を意図したという

家形の頂点に上部の壁の仕上げ面が合うよう調整したことで、ラインの通った繊細な見え方を実現(詳細は断面図参照)。正面奥に見える寝室と居間との間には、空調効率を高めるために、垂木の上下に溝加工を施して透明ガラスを嵌めている

靴箱は、面材にラワン合板、手掛けと木口にはニヤトー無垢材を用いている

軒下の柱は本堂に倣い、礎石で受けるデザインとしている。柱の面を取って八角形断面としたのも、本堂とのつながりを表明するためという。

軒下の柱は本堂に倣い、礎石で受けるデザインとしている。柱の面を取って八角形断面としたのも、本堂とのつながりを表明するためという。

「明恵庵」の表札は、書家の加茂学さんによるもの

 

CREDIT

名称:崇徳寺の家「明恵庵」

設計:kvalito 水上和哉

構造設計:IN-STRUCT 東郷拓真

施工:岩鶴工務店 岩鶴祥司、東原裕樹

造園:園園 中山智憲

仕上(特注焼杉):共栄木材

所在地:大阪府茨木市

竣工:2023年4月

床面積:66.67m2

仕上げ材料

外壁:焼杉 t15 + グレー含浸塗料仕上げ

外部柱:杉材

屋根:ガルバリウム鋼板横葺き

床:ナラ材フローリング

壁:漆喰塗り

玄関建具:ニヤトー材突き板張り目地加工

造作家具:靴箱/ラワン合板+ニヤトー無垢材オイルステイン仕上げ

 

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