USAGIYA Kyoto by cafe co.
Dumpling bar | Kyoto, Japan
DESIGN NOTE
京町家内に見える虹色のガラススクリーン
吉野杉とスチールを組み合わせた家具デザイン
カンナで削り出した無垢のカウンター
photography : Koki Hatano
words : Rika Ito + IDREIT
京都・祇園の風情ある新橋通りに店を構える「Usagiya Kyoto」。以前はバーとして使われていた京町家を、餃子とナチュラルワインを楽しめる餃子専門店へと改装した計画で、cafe co.の森井良幸がデザインを手掛けた。
石畳の通りからは格子の奥にある色鮮やかなガラス越しに店内をうかがうことができる。虹色に見えるガラスフィルムを用いたデザインについて、「外と中の境界線を新たに定義したかった」と森井は語る。このガラスは、見る角度や光の当たり方によって色が変化する特殊フィルムを貼ったもので、日中と夜とでまったく異なる表情を見せる。
森井とともに設計を担当したcafe co.の柳楽博行は、「できれば、外部から直接このガラススクリーンが見えるようにしたかったのですが、景観条例により外装に手を加えることはできません。そこで、外壁から10cmほど室内側に、ダブルスキンのようにフィルムを貼ったガラスを立てました」と説明する。
オーナーの希望でもあった、この未来的な表情のフィルムを用いたことで、それと対比するように、古典的な竿縁天井や吉野杉の柾目材を貼った壁が選ばれた。インテリアデザインを進める上では、吉野を拠点とする木工作家との出会いも大きく影響したという。
「偶然、森幸太郎さんの家具を目にして興味を持ち、工房を訪ねたことで、この店舗のデザインが一気に現実的になっていきました。船大工の経験を持つ彼は、さまざまなカンナを使い分けて、特徴的な形をつくることができるのです。カウンターの天板は、餃子店らしい“中華”感を出すため、エッジをわずかに跳ね上げたデザインをもとに製作してもらいました。これまでは、杉材は赤みが強く、民芸調に見えてしまうという思いから苦手意識がありましたが、空間に使用してみると適度な温かみがあり、木目の生かし方によっては現代的にもなり得る素材だと実感しました」と森井。
椅子とテーブルは、森がカンナで仕上げた座面や天板に、鉄の作家である北尾博史による繊細な脚を組み合わせている。一連の家具のデザインでは、クラフト感を強く打ち出すのではなく、ミッドセンチュリーの家具デザイナー、ロビン・デイへのリスペクトを込めた雰囲気を意図したという。また、壁際のベンチは脚を付けずに片持ちで壁内に固定し、テーブル、座面などの木部は、宙に浮いたような見せ方が徹底された。そうした手仕事のディテールを際立たせるデザインにより、Usagiyaオリジナルのカウンターと家具は、この空間を強く印象づけるものとなっている。
また、コストに限りがある中で、既存設備の活用もこの改装のポイントになったという。「雑多な飲食店然となるのを避けるため、カウンターはドリンクをサーブする機能に限定し、餃子を焼くなどの調理は、店内奥にあった既存の小さな厨房区画で行っています。壁や天井といった内装仕上げはすべてスケルトンにして手を入れましたが、既存のカウンターは天板だけを替え、カウンターバックの棚も表層を整えて再利用するなど、メリハリをつけた改修を行うことでコストを抑えることができました」と森井は振り返る。
京町家という特殊な条件のもと、経験豊富なデザイナーの状況判断と、歴史ある祇園と異質なガラスフィルムの利用、さらに手を触れる部分は作家たちによる個性的なディテールでまとめた編集的な感覚が、“和”や“モダン”といったボキャブラリーでは言い表せない、艶やかな魅力をつくり出している。
(文中敬称略)
DETAIL
CREDIT
名称:Usagiya Kyoto
設計:cafe co. 森井良幸 柳楽博行
照明:モデュレックス 尾谷 聡
カウンター・家具(木部):木工 森 森 幸太郎
家具(スチール部):八木製作所 北尾博史
施工:カプセルコーポレーション
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所在地:京都府京都府京都市東山区元吉町45−1
経営:株式会社GERA 小谷 学
用途:レストラン
開業:2020年9月
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仕上げ材料
壁:杉柾目無垢材
カウンター・家具:杉柾目無垢材
ガラススクリーン:クリアガラス+建築用意匠フィルム (3M ファサラガラスフィルム ダイクロイック/3M)