HOUSE IN NISHIURA by Koizumi Studio
Shizuoka, Japan
DESIGN NOTE
数多く設けられた段差と人の居場所
ロケーションを活かす外キッチンと囲炉裏デッキ
見え方と使い勝手に配慮したディテール
photography : Masao Nishikawa(特記無しはKoizumi Studio提供 )
words : Reiji Yamakura/IDREIT
Koizumi Studioが設計した、駿河湾越しに富士山が見える好立地に計画された住宅。現在、40代の施主が引退後に夫婦でゆったり暮らす家として、また、それまでの期間は研修所のように仲間うちで共有するような使い方が想定されたという。
敷地の中で、どの位置から富士山がよく見えるかをさまざまな角度、高さから検討し、“く”の字型の平家に屋根裏が付いたような建物と、その内外に複数のグループが付かず離れずの距離感で共存できるような居場所が数多く計画された。
「富士山が一番よく見える場所として2階に展望デッキを設け、1階には、ノイズ無く富士山を美しく切り取ることのできる位置に、僕たちが“窓ベンチ”と呼ぶ、窓台をベンチ化したピクチャーウインドーを設けました。住宅の計画では、北側の風景というのは明るく美しいので活かしたいと僕らは常々思っているので、ここでは南北の両方に心地よく使えるデッキを設けました。北側のデッキでは土留めの壁の上部にシンクを設け、屋外キッチンとして使えるようにしています」と小泉はロケーションと各部の関係を語る。
また、研修所という数多くの人が集まる用途に対し、「段差があれば人の居場所になる」という考えをもとに、デッキまわりや土間をはじめ、さまざまな場所に腰掛けられる段差があることもこの家の特徴だ。焚き火台を置いて囲炉裏のように使ったり、上にテーブルを置いて掘りごたつのようにも使える、正方形の穴を穿った“囲炉裏デッキ”や、自然に腰掛けたくなるエントランスの段差など、随所にユニークな居場所が設けられている。キッチンの側面にあたる廊下の一部を活用するため、新たなチャレンジとしてデザインされた、ソファに腰掛けると個室のような感覚となる“廊下ソファ”のアイデアも楽しい。
外壁は潮風にさらされる立地のため、耐候性の高い焼杉が用いられた。この杉板は、バーナーで炙られた市販品ではなく、施工会社の工務店仲間が昔ながらの方法で焼いた、18mm厚の天竜杉の表面を3〜4mmほどしっかり焼いて炭化させたものを用いたという。
施工中のエピソードを尋ねると「僕らはどんな現場でも、10日に一度は現場に顔を出すようにしています。職人の方には、それぞれ得意なつくり方や納まりがあるので、図面よりさらによい方法を探るには、大工さんに聞く作業が欠かせません。あまり頻繁に行くと、また来たのかー、なんて言われますが、そうやって職人の方と対話しながらつくることで、彼らにとっても単なる作業ではなく、自分ごととして丁寧に取り組んでもらえるものです。僕らが通える範囲でしか建築の仕事をしないのは、現場に通いながら細部まで目の行き届いた家づくりをしたいという理由があるのです」と独自のこだわりを明かしてくれた。
コンパクトな書斎にあるコクピットの窓のような横長の開口部は、ご主人がテーブルに向かいながらキッチンやデッキが見渡せるように工夫したものだが、この位置とサイズは棟梁と一緒に確認しながらスケッチを書いて進めた部分という。他にも、障子の縦桟を細く見せる工夫や、知人の金物作家に頼んで特注製作したという引き戸の錠前、トイレの扉に取り付けたストッパー代わりの滑車機構など、手を触れる細部にこだわり、創意工夫を重ねる家具デザイナー・小泉誠らしいディテール満載の住居だ。
(文中敬称略)
DETAIL
所在地:静岡県沼津市
竣工:2018年5月
敷地面積:638.4m2
建築面積:78.03m2
延べ床面積:114.7m2
用途:住居兼研修所
仕上げ材料:
床/土間・モルタル金ゴテ仕上げ
1階床・富士桧フローリングt15リボスオイル仕上げ
2階床・杉三層クロスパネルt30(Jパネル/丸天星工業)リボスオイル仕上げ
外壁/焼杉
内壁/珪藻土塗り壁材(MPパウダー)
トンネル状廊下・杉三層クロスパネル(Jパネル/丸天星工業)+下部ライン状LED照明取り付け
書斎造作家具/杉三層クロスパネル(Jパネル/丸天星工業)
2階丸柱/天竜杉
エントランス扉/木製サッシ(アイランドプロファイル)+特注障子