Interview with HISAAKI HIRAWATA+TOMOHIRO WATABE/MOMENT —part 1

1/2

 
moment-issey-miyake-men-nagoya-interior-design-magazine-idreit-11-.jpg

空間は、服の思想をユーザーに伝える架け橋のようにあるべきと考えた

— Hisaaki Hirawata + Tomohiro Watabe / MOMENT

photography : Fumio Araki

words : Reiji Yamakura/IDREIT

EN

 
 

東京を拠点に2005年に平綿久晃さんと渡部智宏さんによって設立されたデザイン事務所 MOMENT。彼らは、求められる機能やブランドの骨格を見つめながら、空間からグラフィックまでを垣根なくデザインしていく。

ここでは、最近手掛けた店舗や住宅をもとに、代表の二人にデザインへ対するアプローチを聞いた。


 
壁に、高熱で炙ることで独特のパターンをつけた黒皮鉄板を用いた「ISSEY MIYAKE MEN Nagoya」。

壁に、高熱で炙ることで独特のパターンをつけた黒皮鉄板を用いた「ISSEY MIYAKE MEN Nagoya」。

鉄板の表面は、光の当たり方により加熱した部分が青や虹色の表情を見せる。

鉄板の表面は、光の当たり方により加熱した部分が青や虹色の表情を見せる。

 

— まず、スチールを大胆に用いた「ISSEY MIYAKE MEN」について聞かせてください。これまでも同ブランドのショップを手掛けていましたが、この新しいデザインはどうやって生まれたのでしょうか。 

毎シーズン、イッセイ ミヤケ メンの展示会を見にいくのですが、ある時、大地や溶岩など自然からインスパイアされた服づくりのアプローチが印象に残ったことがありました。それは、これまでの数学的で、完全なる機能美というイメージとは異質なもので、その感覚をショップの空間に反映できないか、と思ったことがきっかけです。また、普段からさまざまな素材の実験をしているのですが、その一つである、鉄の酸化皮膜を操作することで現れる歪みのようなものが、ある種の“自然現象”として服の背景となるのではないか、と考えたのです。鉄は、これまで「ISSEY MIYAKE MEN」の店舗で大切にしてきた、メンズらしい力強さやストイックさというコンセプトに合致する素材であり、さらに、従来の白と黒だけの中でわずかな質感の違いを追求するデザインから、一方踏み出したものを生み出せるように思いました。 

— なるほど。この鉄の模様はどう加工するのですか。

 黒皮の鉄は全面が酸化皮膜で覆われているのですが、高熱で炙ると鉄板に歪みが生じ、光の当たり方によって青や虹色に見える現象が起きるのです。ただ、炙り過ぎると主張が強くなり、控えめにすれば目立たずに表面が劣化したように見えてしまうという難しさもあって。また、見た目の調整だけでなく、加熱することで鉄板自体に歪みが出るので、歪みをどの程度矯正すれば建材として使えるのか、どうやって強度を保つかといったことに時間を費やしました。 

 
鉄板のディテール。人や商品が触れる部分のため、特殊なクリアコーティングで仕上げたという。

鉄板のディテール。人や商品が触れる部分のため、特殊なクリアコーティングで仕上げたという。

moment-issey-miyake-men-nagoya-interior-design-magazine-idreit-14.jpg
製作時の様子。黒皮鉄板をバーナーで炙ることで独特の模様を生み出した(2点 写真提供/MOMENT)

製作時の様子。黒皮鉄板をバーナーで炙ることで独特の模様を生み出した(2点 写真提供/MOMENT)

 

— 鉄板の表面はコーティングしているのでしょうか。

 お客さんが手を触れたり、服が接する場所なので、特殊なクリアコーティングを掛けました。実は、焼き跡が見える状態のままコーティングすることが難しく、最終的にメーカーの協力を得てオリジナルのコーティング剤をつくってもらいました。

「ISSEY MIYAKE MEN」の店舗では、ファッションの完成度が高いため、空間は主張するのではなく、服の思想をユーザーに届ける“架け橋”のようにあるべきだと考えています。その考えのもと、ここでは鉄板の歪みや模様を、店舗に表現できる一つの自然現象ととらえ、服と重ね合わせる背景をつくることに注力しました。

 
福岡県・大牟田で、かつて米蔵だった建物を飲食店にリノベーションした「ROOTH 2-3-3」

福岡県・大牟田で、かつて米蔵だった建物を飲食店にリノベーションした「ROOTH 2-3-3」

レンガの壁まわりに並ぶ、既存の柱状の材は残して改修した。

レンガの壁まわりに並ぶ、既存の柱状の材は残して改修した。

 

 — 続いて、築65年のレンガ造建築をリノベーションした飲食店「ROOTH 2-3-3」の設計について聞かせてください。当初の依頼内容は? 

このプロジェクトは、いわゆる飲食店をつくりたいという依頼ではなく、地域創生を目指すオーナーから、ホスピタリティとコミュニケーションを軸に人の集まる拠点をつくりたいという話からスタートしました。いい場所が大牟田に見つかったというので見にいくと、かつて米蔵として使われていた建造物でした。外壁のレンガは、大牟田の炭鉱で使われていたものを再利用したもので、壁の内側には米がレンガに触れないよう、木表の見える材が柱状に並んだ特徴的なものでした。そこで、この建物の記憶を継承しようと、小屋組みと壁際の材をできるだけ残す方向でデザインの検討を始めました。 

— 構造的には問題なかったのでしょうか。

 構造補強にはとても苦労しました。現代の法規を満たそうとすると、梁や小屋組を耐震補強して覆い隠すしかないような設計が求められるのです。ただ、すべて隠しては米蔵の魅力が消えてしまうので、梁まわりの補強や空調設備などをできる限り周辺部に寄せ、必要な強度を保ちながら天井の中央を広く開けるように設計しています。そこへ昼夜それぞれの居心地を高めるトップライトを設け、同時に排煙設備として機能させ法規をクリアしました。また、歴史の継承だけでなく、この場の用途を考えると快適性は犠牲にできないので、モルタルの床下には床暖房を設置しています。設計時に手間を掛けた部分は、竣工後に見えない部分ばかりですね(笑)。

 
構造上求められる補強を施しながらも、既存の小屋組をできる限り見せるデザインにこだわったというインテリア。耐震補強はできる限り周辺部に寄せ、開放的な空間を実現した。

構造上求められる補強を施しながらも、既存の小屋組をできる限り見せるデザインにこだわったというインテリア。耐震補強はできる限り周辺部に寄せ、開放的な空間を実現した。

客席には、新聞を広げて読めるように奥行き110cmのテーブルを設けた。

客席には、新聞を広げて読めるように奥行き110cmのテーブルを設けた。

 

 — その結果、気持ちのいい客席ができたのですね。壁の新聞はずいぶんたくさんありますね。

 これは運営者のこだわりで、各地の専門紙を60誌以上取り揃えています。客席は、コミュニティを誘発する場所が求められていたので、カウンターとテーブルのサイズは、新聞を広げて読めるほど大きく、その他の席は可動式でワークショップなどにも対応できるよう計画しています。

ここでは、今あるものを正しい形で残すにはどうすればいいかを徹底的に考え、数多くの制約に抗った部分が最終形になるという、普段とは異なるアプローチとなりました。

後半に続く

 

MOMENTの2人へのインタビュー後半はこちら

 

RELATED POST

#STORY

 

#MOMENT