Interview with KEI HARADA / DO.DO.

 
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理想とするのは、シンプルな中に豊かさを感じられるデザイン

— Kei Harada / DO.DO.

photography : Takumi Ota (OYANE), Kazutaka Fujimoto (LONG LIFE DESIGN AWARD 2018), Masayuki Hayashi (TRUFFLE)

words : Reiji Yamakura/IDREIT

 

EN

 

2015年に自身のデザイン事務所DO.DO.を設立し、ショップや展示会場など数多くの空間デザインを手掛ける原田圭さんに、長崎県波佐見町のギャラリー&ショップ「ŌYANE」と、移設できる会場デザイン「LONG LIFE DESIGN AWARD 2018」のデザインコンセプトなどについて話を聞いた。


 
長崎県の波佐見町に計画された「ŌYANE」のギャラリーのようなショップ。 photography: Takumi Ota

長崎県の波佐見町に計画された「ŌYANE」のギャラリーのようなショップ。 photography: Takumi Ota

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実際に窯で器を焼くときに使われていた‘ボシ’と呼ばれる白い容器を、積み重ねて什器として用いた。また、一部店内の壁には、円形のボシを一面に積み重ねている。

実際に窯で器を焼くときに使われていた‘ボシ’と呼ばれる白い容器を、積み重ねて什器として用いた。また、一部店内の壁には、円形のボシを一面に積み重ねている。

 

「ŌYANE」での、窯で使う白い容器を店内に大胆に使ったデザインが生まれた経緯を尋ねると、「ここでは、既存店にもっとお客さんが入りたくなるようにしたい、という相談から計画がスタートしました。波佐見は陶磁器の産地としてよく知られる場所なので、まず、ここでしかできない空間にしたいと考えました。現地を視察してさまざまなものを見た中で、当初は石膏型を何かに使えないかと考えましたが、表面が脆いために他を探していた時に“ボシ”と呼ばれるスペーサーのような容器のことを知りました。かつては器を焼く時に使われていいたものですが、現在の製法では不要となっていたものです」。

そこから、使用感のあるボシを什器や壁一面に用いた、波佐見ならではのデザインが生まれた。釉薬の跡がついたものをそのまま用いたのは、そうした偶然にできたものを含め、自然のままの状態を取り入れたかったからだという。また、地下の既存売り場をそのまま残した理由も興味深い。

「地下にあったショップは、ラックに大量の商品を陳列した、いわば業者の人向けのような売り場でした。かなり込み入った店内なのですが、その中で欲しいものを探し出す行為はなかなか面白いと感じました。ただ、高密度の売り場だけではお客さんが疲れてしまうので、探し出す売り場と見てもらう売り場をつくって見せ方にコントラストをつけるのが良いのではないか、という提案をしました。そうすることで両者が引き立ち、また、地下の売り場も生きると考えたのです」。

 
オリジナルデザインによって波佐見焼で製作されたペンダントライト。雲のような柔らかなイメージから、シェード部分にはわずかな歪みが付けられている。

オリジナルデザインによって波佐見焼で製作されたペンダントライト。雲のような柔らかなイメージから、シェード部分にはわずかな歪みが付けられている。

 

そうして、既存売り場にはまったく手を付けずに、上階にカフェカウンターを備えたギャラリーが新設された。また、照明器具にも波佐見らしいデザインが施されている。

「波佐見町の方たちと仕事をする中でとても刺激になったのが、皆さんがイメージを形にすることに長けていて、ものづくりに積極的なことでした。そんな現場でのエネルギーを反映しながらデザインを進める中で、照明器具も僕が図面を描き、波佐見焼でオリジナル製作しました。雲のような自然な形にしたいと考え、わざと手の跡のような歪みのあるデザインとしています」

 
大屋根を掛けた広場のスペースは、陶器市やイベントなどの際に利用されているという。

大屋根を掛けた広場のスペースは、陶器市やイベントなどの際に利用されているという。

ショップへのアプローチ。地下には、既存店がある。

ショップへのアプローチ。地下には、既存店がある。

アプローチの屋外階段は、波佐見焼のかけらをグラデーション状に敷き詰めた仕上げ。

アプローチの屋外階段は、波佐見焼のかけらをグラデーション状に敷き詰めた仕上げ。

 

屋外には、イベント時に利用できる大屋根を掛けた広場がデザインされ、マルシェや陶器市の日に賑わっているという。「陶磁器の里に眠っていたものを見つけ出し、新たな価値を与えることで、波佐見という地域の豊かさを表現したい」という原田の思いが随所に見て取れるもとのなった。

 
「LONG LIFE DESIGN AWARD 2018」の会場デザイン。透明アクリルパイプとオリジナル製作したジョイントパーツにより、解体して再利用が可能なディスプレイシステムが開発された。 photography: Kazutaka Fujimoto

「LONG LIFE DESIGN AWARD 2018」の会場デザイン。透明アクリルパイプとオリジナル製作したジョイントパーツにより、解体して再利用が可能なディスプレイシステムが開発された。 photography: Kazutaka Fujimoto

 

また、つい先ごろ、ドイツのiF デザインアワード2020でWINNERに選定されたばかりの「LONG LIFE DESIGN AWARD 2018」についても話を聞いた。

解体して再利用ができる、この展示デザインでは、アクリルの丸パイプと棚板という一般的な素材に対し、オリジナル製作した木製ジョイントと、さらに補強材となるブレースを加えることで、透明感のあるストラクチャーを立ち上げている。構造的なアイデアは、紙管の家具の考え方が元になったと言う。

「展示会自体のコンセプトから、ニュートラルな会場デザインがふさわしいと考えました。また、夏の展示だったこともあり、爽やかな雰囲気とするために透明アクリルをメインの素材として選びました。試作するまでは、構造的に安定するか不安がありましたが、要所をブレースで固定することで必要十分な強度を得ることができました」。

 
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ジョイントは、12mm厚の合板をレーザーカットしたものを組み合わせ、連結する部材に応じた5種類のパーツが製作された。

ジョイントは、12mm厚の合板をレーザーカットしたものを組み合わせ、連結する部材に応じた5種類のパーツが製作された。

 

また、オリジナル製作したジョイントについては、「できるだけ単純化するため、12mm厚の合板をレーザーカットしたものを組み合わせて五つのパーツをつくりました。表面を塗装せずに、木であることを見せるのも一つの方法と思いましたが、レーザーカットした時に小口が黒く焦げるので、組み立て時に焦げ跡が手に着いてしまう点などを考慮し、全体を黒塗装でコーティングすることにしました」

その結果、黒く仕上げられたジョイントとブレースが、透明なパイプと棚板の浮遊感を際立たせている。

 

取材の最後に、装飾や色味を抑えた空間を手掛けることの多い原田に、自身の好みや、デザインする上で意識していることを尋ねてみた。

 「基本的には、色などはあまり使わず素材をそのまま使ったシンプルなものが好きです。シンプルなデザインと言っても、日本でいうシンプルさというのは、時として質素なものやストイックさと結びつけられることがあるように思いますが、自分が理想とするのは、シンプルな中に豊かさのあるデザインです」。

 
原田が2013年に発表したサイドテーブル「truffle」。見る角度によって形が変わって見えるような、愛らしい形を目指したという。photography: Masayuki Hayashi

原田が2013年に発表したサイドテーブル「truffle」。見る角度によって形が変わって見えるような、愛らしい形を目指したという。photography: Masayuki Hayashi

 

ミニマリストと呼ばれる海外デザイナーの仕事で、とても簡素な空間なのに人が触れる部分だけ上質な温かみのある素材を使った空間などからは、「シンプルな中に、貧しさやストイックさとは異なる魅力を感じる」とも語る。シンプルさへの解釈に関連して、日本らしいデザインへの考え方を聞くと、こんな体験を語ってくれた。

「自分の中で日本らしいものに対する考え方は、この数年で少し変化しました。京都の龍安寺の石庭に行くまで、そこには整理された美しさがあると思っていました。しかし、実際に行ってみると、石庭は素晴らしいものでしたが、それだけでなく、自然に曲がった木があっても辻褄を合わせて納めてあることや、石庭に至るまでのアプローチに感動しました。

それまで、伝統的な日本らしさというのは、水平垂直の線だけで構成された美しさだと思っていたのですが、自然物の形状をうまく許容しながら、全体をつくり上げていることに気づいたのです。そうした点が空間にわずかな違いや複雑性を生み出している。また、そこに技術の高さや職人のこだわりがあるように感じました」

また、そうした体験からの影響として、「デザインで直接的に日本らしいものをつくろうとしたことはありませんが、間の取り方や、アプローチを経て次のスペースへ至る展開などは意識しますし、そうした考え方に影響を受けているのだと思います。また、デザインを始めたばかりの頃は、これとあれが合っていないのは許せない、というように細かな点が気になって許容できませんでしたが、最近は、細部だけを気にするのではなく、全体の流れや辻褄が合っていることが大切だと感じ、その場に応じた解法を考えるようになりました」と現在の考え方を語ってくれた。


インタビュー冒頭で紹介した、「ŌYANE」プロジェクトは、デザイナーが部外者の視点で価値のあるものを取捨選択し、地域のマインドを反映しながら、その地のユニークさを再発見した好事例であり、昨今注目を浴びる“ローカリティ”の表現として興味深い。

現在、同じ敷地において、DO.DO.のデザインによる飲食スペース「COYANE」の計画が2020年5月開業予定で進行中とのことで、その完成が楽しみだ。

(文中敬称略)

 
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KEI HARADA

原田 圭/ 1980年 長崎県諫早市生まれ。2003年 武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。2007年 TONERICO:INC.(トネリコ)入社。 米谷ひろし、君塚賢、増子由美に師事。2014年 同社チーフデザイナーを務め、独立。2015年 株式会社ドド設立。インテリアデザインを主に建築、家具、プロダクトデザインの設計を行う。IF DESIGN AWARD GOLD、ICONIC DESIGN AWARD BEST OF BESTなど受賞暦多数。

http://do2.jp/

 
 

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