Interview with DAISUKE MOTOGI | DDAA/DDAA LAB —part 2
photography : Kenta Hasegawa
words : Reiji Yamakura/IDREIT
東京を拠点に、設計事務所のDDAAと、主にリサーチとプロトタイピングを手掛けるための組織DDAA LABを率いる建築家の元木大輔さんへのインタビューの第二弾。前回8月公開のインタビュー「Interview with DAISUKE MOTOGI —part 1」で、プロジェクトを始めた経緯などを紹介した「Hackability of The Stool」は、10月にインスタグラム(www.instagram.com/daisukemotogi)上での全100回の公開を終えた。その後、初となる著書「工夫の連続:ストレンジDIYマニュアル」を刊行した元木さんに、DDAA LABの活動として先ごろ発表した「Strange Tensegrity Table 3」のデザインを含めて話を聞いた。
— 「Hackability of The Stool」では、100のアイデアを連日楽しく拝見しました。後半も、ロッキングチェアのようなスツールや、猫用のバスケットが付いたものなど、ユニークなものがたくさんありましたね。反響はいかがでしたか。
SNSで公開したことで、ダイレクトな反応があったことが楽しかったですね。マトリョーシカのように、一脚のスツールの中に小さいスツールを入れたアイデアでは、幼稚園のような成長過程の子供のいるところに使いたい、という声などもありました。また、日本のアルテックの方が興味を持ってくれたので、将来、何かを一緒にできるかもしれません。
— それはいいですね。この「Hackability of The Stool」では、100点もあるアイデアの自由さとともに、アアルトがL-レッグ(STOOL 60に使われている、無垢材を直角に曲げ加工した脚のパーツ)を発想した時の考え方にアプローチした企画だったことがとても興味深いものでした。
「STOOL 60」の素晴らしいところは、シンプルで完成度の高いデザインであり、基本的な製造方法は、戦時中を除けば1930年代から現在までほぼ変わらないそうです。開発当時、アアルトはスツールだけでなく、L-レッグのシステムを使って収納家具からプレファブ住宅のような大きなものまで、生活の中のあらゆるものをデザインしようとしていました。そのコンセプトとしては、大量生産することで手頃な価格でモノを供給し、皆の生活を底上げしようというモダニズムの考え方が根底にあったのだと思います。
かつてアアルトが、建築の規格化について「建築を規格化するのであれば、自動車のような大量生産的な画一化ではなく、生活に適応した変化と豊かさをつくるべきだ」という意味のことを言っていました。僕たちは、このSTOOL 60を完成したスツールとして見なさずに、一つの素材として新たな使い方を探求することで、L-レッグというパーツのポテンシャルを改めて提示すると共に、アアルトの思い描いた理想ともつながるリサーチになったのではないかと思っています。
— 今後、100脚の実物を見られる機会はあるのでしょうか。
いま、ある展示スペースから声を掛けてもらい、時期は未定ですが100脚すべてを見せる展覧会を都内で計画しているところです。また、2020年5月の出展予定が2021年6月に延期されましたが、イタリアの「Venice Design Biennial」でも展示する予定です。さらに、「Hackability of The Stool」の内容を元にした書籍も2021年春ころ、「建築の建築」から発売します。
— どれも楽しみです。このプロジェクトについては、先日発売された著書「工夫の連続:ストレンジDIYマニュアル」の中でも解説されていました。この書籍は、いわゆる建築家の作品集とはまったく異なるものなのですね。
この本では、これまで自分でデザインしてきたプロダクトや空間に対する提案について、つくり方や材料を含めてまとめました。スツールの改変とも背景は共通していますが、僕は世の中にあるものをすべて素材と見なし、身近なものから大きなスケールのものまでを、カロリー少なく、より良くする方法をいつも探っていて、その眼差しで対象を見ると、世の中のものがすべて改変可能、プログラマブルであると考えられるのです。
モダニズムというのは、世の中を均質化して生活の質を高めようという考え方が基本になっており、それは大成功しました。成功したがゆえに、大量生産品が世の中にあふれ、どんな地域も風景が同じで抱える問題さえも同じ、という今の状況があります。質の底上げをした結果、均質化が進み、さまざまなものが退屈になってしまったと思うのです。その現状を乗り越えるには、ポストモダンのように正反対のコンセプトで抗うのではなく、少しだけ視点をずらし、さらに良くする余地を探るべきではないか。そんな考えをもとに、現状を変えていくアイデアをDIYできるようにまとめたのがこの本です。
— 組み立て方の図解などもあり、まさにマニュアルですね。最後に、先ごろ発表されたテンセグリティーシリーズの新作「Strange Tensegrity Table 3」について聞かせてください。初期のホウキを使ったものから数えて3作目ですね。
第一弾の「Strange Tensegrity Table」は、2017年に開催された展示会「エクスペリメンタル・クリエーション」の会場構成を依頼された時にデザインしたものです。同展のスポンサーである荒川技研工業の金物やワイヤーを使うことができたので、当初カンティレバーや吊り下げる方法を検討したのですが、展示物を載せるテーブルが主張し過ぎてはよくないと考え、“テーブルの下でだけ、よく見ると何かおかしなことが行われている状況をつくる”というアイデアから、テンセグリティー構造を用いました。
よく見るテンセグリティーを応用したプロダクトは、やや工学主義的なところがあるので、脱力させたほうが面白いのではないかと考え、日常にあるかっこ悪い存在をどう組み合わせると良いものになるかというスタディを進めました。僕は、古くはマルセル・デュシャンのレディメイドや、最近ではアーティストの冨井大裕さんによる、既成品の意味を変える作品が好きで、その影響から脚の素材としてハンマーなどを探してみたのですが、このテーブルにはもっと安っぽいものが合うと考え、最終的に100円ショップで手に入るホウキを選びました。
— 第二弾の「Strange Tensegrity Table 2」では、枝と鏡面素材の脚を組み合わせていましたね。
これは、かつてインテリアデザインを手掛けたセカンドハウスのために製作したものです。施主からは一枚板を使ったテーブルが欲しいというリクエストがあり、一つは栗の無垢材を用いたダイニングテーブルをデザインしました。同様のテーブルがもう一つあるのは少しくどいように思い、ローテーブルについては要望を拡大解釈して、髑木(しゃれぼく)を脚の一部にしたデザインを提案しました。テンセグリティーは、空間的なものにまで拡張可能な考え方なので、ホウキを使ったテーブルの後にもスタディを継続していたものが役に立ちました。
— なるほど。そして、さらに飛躍して「Strange Tensegrity Table 3」となったのですね。これはクライアントワークではないのですか?
はい。これは、プロトタイプとしてDDAA LABの自主的なプロジェクトとして製作したものです。通常のテンセグリティーでは、垂直材3本と水平材3本で構成するのですが、ここでは水平材を一つ減らした、とても奇妙な構造としています。設計時には建築家の木内俊克さんに形状解析を協力いただき、ミリ単位で最適な位置を検証しています。
— テーブルとはいえ、アートのような存在感がありますね。
はい。木の枝が一つだけ浮いているので、鑑賞の対象になると考えました。もはや、テーブルにする必要があるのかどうかわからないようにも見えますが、木の枝が一本、額縁内に展示されているような効果が生まれています。かつて、事務所で壁に掛けた大きなフレーム内に日用品を飾ってみる、という“遊び”をしていて、ビニール傘のように何の変哲もないものを入れるのがなかなか良いことに気づき、スコップやゴミ箱を飾って楽しんでいました。心理学にフレーミングという言葉がありますが、日用品を額縁に入れてみるように、枠組みを変えることでそれまで見えていた景色が変わることに大きな面白みを感じています。
現在、同じような考え方をもとにデザインした、ホテルの客室や、アートのようなプロダクトデザインが進行中なので楽しみにしていてください。
DDAA LABで進めるリサーチについて、「自主的なプロジェクトは後々いろいろなところで効いてくる」と元木は語る。コロナ禍の日々変化する情勢の中でも、自らプロトタイプを製作し、発信するアプローチを設計事務所の一部に組み込んだDDAA/DDAA LABならではのスタイルが、ユニークなアイデアの源泉となっており、今後のプロジェクトからも目が離せない。